新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により、手指をはじめ様々なものをアルコールで消毒するようになりました。そのような中、安易なアルコール消毒に対する注意喚起が、SNSやニュースなどでなされています。
図書館に注目してみると、「本にアルコール消毒を施すと本の劣化につながるのでやらないでほしい」という呼びかけが話題になっています。
それでは、図書館資料の適切な消毒方法についてみていきましょう。
――図書館の新型コロナウイルス対策の現状
図書館では、緊急事態宣言解除後に営業再開に向け、5/14に「図書館における新型コロナウイルス感染症拡大予防ガイドライン」が発表されました。その中では、資料にふれる人自身の手洗い、消毒、密を避けることが促されています。具体的には閲覧スペースの座席制限、入館者数、時間の制限などが示されています。1)
書籍の消毒に関しては、 以下のような方法がとられています。
隔離放置
返却された本などを一定時間放置することで、付着したウイルスを不活性化させることです。資料への影響が少ないこと、金銭的なコストが生じないことなどから広く行われています。利用者も、借りた本を自宅で消毒したい場合この方法をとりましょう。紙は24時間ほど、プラスチックは72時間ほど放置すればいいと言われており、24~72時間を目安に隔離するケースが多いようです。2)
消毒液
本の表紙がブッカーなどでコーティングされている場合、消毒液の使用も考えられますが、誤って使用すると本を痛める可能性があり注意が必要です。具体的には後述します。
紫外線照射
殺菌ボックスが設置される図書館も増えつつあります。弊社が扱う殺菌庫COCOCHIも幅広い菌やウイルスへの効果が検証されており、新型コロナウイルスへの有効性も未検証ですが期待されている段階です。
ただし、紫外線は紙の大敵であることから、日本図書館資料保存委員会からは推奨されておらず2) 、貴重書への利用は避けた方が良いとも考えられます。また、本を直射日光にあてると、紙の劣化につながるので行ってはいけません。3)
――消毒液の種類
消毒液の種類は、一般的に使われているアルコール以外にも存在します。
今回紹介するのは、
・アルコール(消毒用エタノール)
・次亜塩素酸ナトリウム
・次亜塩素酸水
この3つです。これらはすべて、物に付着した新型コロナウイルスの消毒に有効であると認められたものです。4)5)
アルコールをプラスチック製品に使用する際には、注意しなければなりません。アルコール類は有機溶剤であり、結晶をつくらないアクリルやポリスチレンのような一部のプラスチックを溶かしてしまいます。新型コロナウイルス対策で見かけるようになったパーテーションなど、アクリル製品の消毒にアルコールを使用するのは控えましょう。白濁やひびの原因につながります。
ーーでは、本に使用するのはどうなのでしょうか?
日本図書館協会はFNNプライムオンラインのインタビュー3)に対して、
「本をフィルムコーティングすることでアルコール消毒ができるようになり、実際に図書館でもそのような処理は行っているというが、利用者が間違ったやり方でアルコールの散布などをしてしまうと、本の劣化につながってしまうというのは事実だ」
と考えを示しています。利用者がアルコールを使って図書館の書籍を消毒するのは控えるべきのようですね。
次に、次亜塩素酸ナトリウムと次亜塩素酸水の違いについてまとめていきます。これらはよく混同されますが、全く異なる物質です。
次亜塩素酸ナトリウムはハイターなどに代表される塩素系漂白剤に使用されている物質です。アルカリ性の物質で酸化作用により消毒を行います。人体に有害なので空間噴霧や手指の消毒に使用してはいけません。4)
一方、次亜塩素酸水は次亜塩素酸を主成分とする酸性の溶液です。こちらも同じく酸化作用によって消毒が行われます。その製法には、塩酸などの電気分解や次亜塩素酸ナトリウムの酸性化などがあります。4)
次亜塩素酸水は多義的な言葉であり、はっきりと規格や基準が設けられていません。ここでいう次亜塩素酸水は、食品添加物(殺菌料)に指定されているもので規格が存在します。4)5)
続いて、次亜塩素酸ナトリウムと次亜塩素酸水のプラスチック耐性について記述します。これらはともに、ブッカーなどに使用されるポリエチレン、ポリエステルの素材に問題なく使用できます。アルコールが使用できないアクリルにも使用することができます。6)7) ただし、金属類に使用すると錆びにつながります。金属部分にはアルコールを使用するようにしましょう。9)
なお、次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸水を用いる場合であっても、利用者が消毒液を使って図書館の書籍を消毒することは控えましょう。
――次亜塩素酸水の正しい使用 注意事項
◇安全に使用するために…
- 成分が表示されていない製品も存在します。そのため購入使用の際には、製品に有効成分(有効塩素濃度)、酸性度(㏗)、使用期限の表示がきちんとされているか注意するようにしましょう。4)9)
- そのまま原液で使用するものと希釈して使用するものとあり、製品の表示に従って正しく使う必要があります。4)
◇効果的に使用するために…
- 次亜塩素酸水は、汚れをあらかじめ落としてから使いましょう 。 8) 汚れが残った状態で使用すると、手垢などの有機物に反応し、ウイルスが効果的に消毒されない可能性があります。ブッカーの表面に付いた汚れを弊社のLクリーナーなどで落とすことを推奨します。
- 対象物に対して十分な量を使用しましょう。アルコールのように少量では効果が大きく期待できません。4)9)
ここまで次亜塩素酸水について書いてきましたが、弊社で取り扱う「弱酸性次亜塩素酸水CELA」は、信頼できる次亜塩素酸水としておすすめしています(旧名:プラスシー、品番6318-1)。
pHは6.5±0.05、有効塩素濃度50ppmと人体に安全で、実際に安全性試験も実施されています。9) すなわち、物品にも人体にも安心して使うことができます。
まとめ
- 利用者が消毒液を使って図書館の書籍を消毒することは控えましょう。
- パーテーションに使われるようなアクリル製品の消毒にアルコールを使用するのは控えましょう。
- 次亜塩素酸ナトリウムと次亜塩素酸水は、ブッカーのようなポリエチレン、ポリエステル由来の製品の消毒に問題なく使用できます(アルコールについては未調査なため、過度な使用は推奨しません)。
- 弊社で販売している次亜塩素酸水は人体にも安全です。
- 次亜塩素酸水をブッカーに使う際、Lクリーナーなどで事前に汚れを落としてから使用しましょう。
【参考文献】
- 日本図書館協会(2020), 「図書館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」, <http://www.jla.or.jp/Portals/0/data/content/information/gaidoline-corona0514.pdf>
- 日本図書館協会資料保存委員会(2020), 「図書館資料の取り扱い(新型コロナウイルス感染防止対策)について -人と資料を守るために-」, <https://web.archive.org/web/20200709022426/http://www.jla.or.jp/Portals/0/data/iinkai/hozon/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8%E5%8D%94%E4%BC%9A%E8%B3%87%E6%96%99%E4%BF%9D%E5%AD%98%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A.pdf>
- FNNプライムオンライン編集部(2020), 「「図書館の本をアルコールや日光で消毒しないで」投稿が話題…利用者がするべき感染予防を協会に聞いた」, <https://www.fnn.jp/articles/-/41003>
- 厚生労働省(2020), 「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について(厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ)」, <https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/syoudoku_00001.html>
- nite独立行政法人製品評価技術基盤機構(2020), 「新型コロナウイルスに対する消毒方法の有効性評価について最終報告をとりまとめました。~物品への消毒に活用できます~」, <https://www.nite.go.jp/information/osirase20200626.html>
- 株式会社フロンケミカル(2015), 「耐薬品データ」, <https://www.flon.co.jp/wp-content/uploads/2015/10/technical-data07.pdf>
- 日本プラスチック工業連盟, 「主なプラスチックの特性と用途」, <http://www.jpif.gr.jp/2hello/conts/youto_c.htm>
- 健栄製薬, 「消毒剤の基礎」, <https://www.kenei-pharm.com/medical/countermeasure/base/05.php>
- 株式会社SANRI(2020), 「nite発表次亜塩素酸水の有効性について」, <https://cela-water.com/information/0001.html>
- 日本図書館協会(2020), 「COVID-19に向き合う」, <http://www.jla.or.jp/committees/jiyu///tabid/854/Default.aspx#note02>
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